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誘導電動機のスターデルタ(Y-Δ)始動法
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三相誘導電動機の始動法の一つに、スターデルタ(Y-Δ)始動法があります。
このスターデルタ始動法は、誘導電動機の始動時(運転開始時)には誘導電動機の固定子巻線をスター結線(Y結線)にして、誘導電動機が回転して加速したら、スター結線をデルタ結線(Δ結線)に切り替えて運転する誘導電動機の始動法です。
それで、
なぜ、このような始動法があるのか?
その理由は、誘導電動機の固定子巻線をスター結線にしたときとデルタ結線にしたときの各相に流れる電流の大きさの違いにあり、デルタ結線のときと比較してスター結線にしたときには、各相に流れる電流を1/3にすることができるためです。
つまり、誘導電動機の始動時は固定子巻線の結線をスター結線にして、通常運転時にはデルタ結線にすることで、始動電流を1/3に制限することができ、始動トルクも1/3になります。
それでは次に、誘導電動機をスターデルタ始動させる回路について説明し、始動電流が1/3になる理由について考えてみます。
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誘導電動機をスターデルタ始動させるための回路
誘導電動機のスターデルタ始動回路を簡単に書くと、次の図1のような回路になります。
この回路は、三相交流電源に誘導電動機(固定子巻線)が接続された回路で、スイッチ①、スイッチ②で誘導電動機の固定子巻線の結線をスター結線とデルタ結線に切り替えることができます。
スイッチ①のみをON(スイッチ②はOFF)したときの回路は次の図2のようになり、書き換えると図3のようになります。(分かりやすいようにスイッチ②の回路は無視して書いています。)
図3より、スイッチ①のみをONした回路は固定子巻線がスター結線になっているのが分かります。
次に、スイッチ②のみをON(スイッチ①はOFF)したときの回路は次の図4のようになり、書き換えると図5→図6→図7のようになります。(分かりやすいようにスイッチ①の回路は無視しています。)
なので、スイッチ②のみをONすると誘導電動機の固定子巻線はデルタ結線になります。
このようにスイッチを切り替えることで、誘導電動機の固定子巻線の結線をスター結線、デルタ結線にそれぞれすることができます。
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スターデルタ始動にすると始動電流が1/3になる理由
ここまでで説明したように、スターデルタ始動法は、誘導電動機の固定子巻線を始動時にはスター結線、通常運転時にはデルタ結線にする始動法です。
それでは次に、始動時(スター結線)と通常運転時(デルタ結線)に、各相に流れる線電流の大きさについて考えてみます。
誘導電動機に供給する三相交流電源の線間電圧を $V$[$ \mathrm{V} $]、固定子巻線のインピーダンスを $Z$[$ \Omega $]とすると、回路図は図8のようになります。
すると、スイッチ①をONしたスター結線のときの回路図は図9のようになります。(見やすいように横書きにしています。)
ここで、求めたいスター結線のときの各相に流れる線電流は図9の $I_Y$[$ \mathrm{A} $]です。
図9の線間電圧は $V$[$ \mathrm{V} $]なので、固定子巻線一相分( $Z$[$ \Omega $])にかかる電圧はスター結線の線間電圧と相電圧の関係より、$\dfrac{V}{\sqrt{3}}$[$ \mathrm{V} $]になります。
したがって、求めたい電流 $I_Y$[$ \mathrm{A} $]は、
$I_Y = \dfrac{\dfrac{V}{\sqrt{3}}}{Z} = \dfrac{V}{\sqrt{3}} \times \dfrac{1}{Z} = \dfrac{V}{\sqrt{3} \, Z}$
$\therefore I_Y = \dfrac{V}{\sqrt{3} \, Z}$ [$ \mathrm{A} $] …③
となります。
次に、デルタ結線の場合について考えます。
スイッチ②をONしたデルタ結線のときの回路図は、図11のようになります。(見やすいように横書きにしています。)
ここで、求めたいデルタ結線のときの各相に流れる線電流は図11の $I_\varDelta$[$ \mathrm{A} $]です。
$I_\varDelta$[$ \mathrm{A} $]を求めるために、各相の固定子巻線に流れる電流 $I_a$ 、$I_b$ 、$I_c$ を図12のように定義します。
すると、図12の $\mathrm{A}$ 点に着目すると、キルヒホッフの電流則より次の関係が成り立ちます。(交流なのでベクトルで考えますよ!)
$\dot{I_\varDelta} + \dot{I_b} = \dot{I_a}$
$\therefore \dot{I_\varDelta} = \dot{I_a} - \dot{I_b}$ …④
④式より、電流 $\dot{I_\varDelta}$ のベクトル図は、次のようになります。
あとは図13より、$\dot{I_a}$ の大きさ $I_a$ が分かれば、$\dot{I_\varDelta}$ の大きさ $I_\varDelta$ が分かります。
図12より一相分だけの回路を書いてみると図14のようになるので、$I_a$ は、
$I_a = \dfrac{V}{Z}$ [$ \mathrm{A} $] …⑤ となります。
したがって、図13のベクトル図と⑤より、$I_\varDelta$ は、
$I_\varDelta = I_a \cos 30^\circ \times 2 = \dfrac{V}{Z} \cos 30^\circ \times 2$ $= \dfrac{V}{Z} \times \dfrac{\sqrt{3}}{2} \times 2$ $= \dfrac{\sqrt{3} \, V}{Z}$
$\therefore I_\varDelta = \dfrac{\sqrt{3} \, V}{Z}$ [$ \mathrm{A} $] …⑥
以上③、⑥より、スター結線のときの各相に流れる線電流 $I_Y$ とデルタ結線のときの各相の線電流 $I_\varDelta$ が求められたので、この2つを比較すると、
$\dfrac{I_Y}{I_\varDelta} = \dfrac{\dfrac{V}{\sqrt{3} \, Z}}{\dfrac{\sqrt{3} \, V}{Z}} = \dfrac{V}{\sqrt{3} \, Z} \times \dfrac{Z}{\sqrt{3} \, V}$ $= \dfrac{1}{3}$
$\therefore \dfrac{I_Y}{I_\varDelta} = \dfrac{1}{3}$
となります。
したがって、誘導電動機をスターデルタ始動にすると始動電流(つまり、スター結線のときの線電流)は通常運転時の電流(つまり、デルタ結線のときの線電流)の1/3になります。
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スター結線やデルタ結線のときの相電圧や線間電圧の関係などは、こちらの配電線の種類のページの三相3線式を参考にしてみてください。
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